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ミニ情報通信

関東甲信越ブロック障害者雇用支援セミナーが開催されました。

令和4年12月16日(金)午後1時15分から、標記セミナーが田沼全障協理事の司会進行のもとオンラインで開催されました。

このセミナーは、全障協が厚生労働省から受託した「障害者に対する差別禁止・合理的配慮等に係るノウハウ普及・相談支援事業」の一環として開催されたものです。

最初に全障協の栗原会長から開会の挨拶があり、その概要は次のとおりです。

1)多くの皆さまに本セミナーにご参加いただきありがとうございます。最近は、新型コロナウイルス感染第8波の懸念、円安、原材料の高騰、身近な電気・ガス等光熱費の値上がり等企業経営及び障害者雇用を取り巻く環境は厳しさを増しています。2)全障協は、令和元年度に30周年を迎え、本年度で設立34年目に入りました。その間、公益社団法人への移行、全重協から全障協への団体名の変更などの歩みを進めてまいりました。3)国の障害者雇用対策については、「障害者雇用促進法」の改正法案が10月に国会に提出され、先日可決、成立し、大きな転換期を迎えつつあります。4)こうした中、全障協の目的である障害者の雇用促進及び職場定着の推進に寄与することを実現するため、一層効果的な事業の推進を図ってまいりたいと考えております。5)全障協は、一般企業、特例子会社、就労継続支援A型事業所など多様な全国334会員(令和4年6月末現在)からなっており、特定の分野に特化していない唯一の全国団体です。このため、障害者雇用に関する様々な情報・ノウハウの提供や企業見学会等について1団体で対応できることを特色としています。6)平成29年度からは、厚生労働省から合理的配慮に係るノウハウの普及等を目的とした事業を受託し、全国主要都市に障害者雇用相談コーナーを設置しています。コーナーには専門相談員を配置していますので、ぜひ気軽に活用いただきたいと存じます。7)本日のセミナーもこの厚生労働省からの受託事業の一環として開催するものであり、今後の障害者雇用に活かしていただければと期待しています。

開会挨拶に続いて、早稲田大学教育・総合科学学術院教育学部教授の梅永雄二先生から「発達障害の正しい理解と就労支援のあり方」と題してご講演をいただきました。その概要は、次のとおりです。(梅永先生のお話の詳細はこちらの資料をご覧ください。)

1)私が大学を卒業してカウンセラーとして約15年間勤務していた頃は、「知的障害者」の就職が困難で、主な支援対象だった。その後、「知的障害者」の就職環境は改善し、近年では、自閉スペクトラム症を中心とする「発達障害」の方々の就職が課題となっている。

2)発達障害は、SLD(限局性学習症:知的障害はないものの、読むこと、書くこと、計算することが苦手)、ADHD(注意欠如多動症:不注意で物忘れが多く、多動でじっとしていられない、衝動的に行動する)、ASD(自閉スペクトラム症:人とのかかわりが苦手(コミュニケーションも含む)、こだわりが強い)の障害が中心となっている。

3)最近、文部科学省から発表された小・中学校に在籍する発達障害の子は 8.8%に上昇した。その内訳は、LD(学習障害)が最も多く6.5%、次いでADHD(注意欠如多動症)が4%、ASD(自閉スペクトラム症)が一番少なく1.7%となっている。

4)学校の段階では、読み・書き・計算ができない子が課題の中心となるが、障害者の「就労」は、医療、教育、福祉と異なり、環境との相互作用によって成り立っている。大学生の就職率をみると、一般の大学生が94.4%、大学生のうち障害者全体の就職率は50.8%、発達障害の大学生に限ると30.0%となっている。また、高齢・障害・求職者雇用支援機構の調査によると、この発達障害者の中でも、就労に課題が多いのが「自閉スペクトラム症」とのことだった。

5)「自閉スペクトラム症」の就労上の課題をみると、第一は「職場における人とのかかわり」である。例えば、一緒に働く同僚と昼食、会議、廊下や給水場での会話が上手くできない。また、しゃべりすぎたり、不適切なことを言う等職場にうまく「なじめない」。第二は、「仕事の遂行能力」である。このうち「実行機能の問題」が指摘されている。例えば、いつ、どこで、何を、どのような手順で行うかといった先の見通しを持って行うことに課題がある。これによって、優先順位をつけられない、締め切りに間に合わない等の問題が生まれる。第三は、「感覚の問題」である。職場でのプリンターの音、オフィスの照明、同僚の香水の匂い等感覚的な刺激を排除することが難しく、集中力が途切れ、疲弊してしまう。

6)発達障害者特に「自閉スペクトラム症」の方について、就労における課題、必要な支援を把握するためには、アセスメントを行う必要がある。ここでいうアセスメントとは、支援する障害のある人をよく知る(理解する)ことで、就労支援では、その人に適した仕事(職務)を見つけ、どのような支援が必要かを見極めることである。

アメリカでは、その手段としてT−STEP(注:アメリカ・ノースカロライナ州の州立機関のTEACCH Autism Program「自閉症 及びそれに準ずるコミュニケーション課題を抱える子ども向けのケアと教育 プログラム」中の就労支援プログラム)という新たな手法が立ち上がった。16歳から21歳までが対象となっている。これは、学校卒業後就職するためにどういうことを知っておくべきかをまとめたものである。(注は事務局が挿入)

7)T−STEPで使用されているのがBWAP2である。これを日本語版に翻訳したものが「発達障害の人の就労アセスメントツール」(合同出版)である。これは、同僚、上司、ジョブコーチ、教員、支援員等基本的にだれでも利用できる。また、ハードスキル(仕事そのものの能力)よりもソフトスキル(仕事そのものの能力ではなく、数量化することが困難で、例えば「職場へ行くときに遅刻せずに行く」、「職場にあった身だしなみを整える」等仕事に間接的に影響を与える「職業生活遂行能力」とでも呼ぶべき能力)の項目が多く含まれている。アセスメントには次の4つの領域が含まれている。@「仕事の習慣・態度の領域」(10項目)A「対人関係の領域」(12項目)B「認知スキルの領域」(19項目)C「仕事の遂行能力の領域」(22項目)の各項目に0点から4点の5段階評価を行う。これは、慣れてくると10分〜15分で行うことができる。

8)発達障害者に対して就労支援していくためには、「生活障害者」という考え方で臨んでいくべきである。一番必要な支援は、生活支援であり、生活上何に困っていて、どのような支援が必要かを整理する必要がある。また、できないところは「人の援助を受ける、相談する」というスキルを教えなければならない。そのためには援助を提供する側「ライフスキルカウンセラー」等といった生活支援者を育てなくてはならない。

9)また、雇用主のための自閉症者雇用マニュアルとして、「自閉スペクトラム症(ASD)社員だからうまくいく〜才能をいかすためのマネージメントガイド〜」(明石書店)が出版された。

10)発達障害者支援のためには、「日常生活の遂行(ライフスキル)」の土台の上に、「職業生活遂行(ソフトスキル)」、さらにその上に「職務の遂行(ハードスキル)」といったピラミッド型になっていることを理解しなければならない。

11)アメリカの先進的な企業においては、自閉症の人に対しては面接試験をなくし、さらに関係する管理職や採用担当者を対象として、受入れのためのトレーニングを実施している。日本の企業においてもそうした対応の浸透を望んでいる。


梅永様の講演に対する質疑応答の後、株式会社リコープロフェッショナルサービス部人事サポート室の中村様から障害者雇用を推進する企業関係者の視点から事例報告が行われました。その概要は、次のとおりです。(中村様のお話の詳細はこちらの資料をご覧ください。)

1)リコーの従業員数は、9,982名で、障害者雇用率は、2.52%となっている。
 2)リコーにおける障害者雇用に関する考え方は、「多様な人材が活躍できる職場環境を構築」することを目指すということであり、「ダイバーシティ推進」と「ワークライフ・マネジメント」を進めている。そのための具体的は取組として、「多様な人材の活躍推進」、「両立支援と働き方の見直し」、「意識・風土醸成」を推進している。この「多様な人材の活躍推進」の一つとして「障害者への職域拡大」を進めている。
 3)当社の障害者雇用では、障害のある社員であっても、自ら考え、行動できる、職場にとって必要な人材として成長することを期待している。その際、必要な配慮はするが、特別扱いはしない。
 4)発達障害者については、2015年から雇用を開始し、今年12月時点で、技術職5名、スタッフ職3名となっており、離職した者はいない。また、この内の一人は、数学的思考能力を活かし、業界初の技術で製品化に成功した者がいる。
 5)採用にあたっての選考プロセスの特徴としては、大学、人材紹介会社、支援機関からの応募に基づき、履歴書の他に障害に関する説明書(A4版1枚)を求めている。また、一般応募者と同様にSPI受験、書類選考、人事部面接等を進める他、精神・発達障害のある学生限定で2〜6週間、配属予定先でインターンシップを受けていただく。これによって合否を判断している。併せて、社員は発達障害についての勉強会に参加するとともに、発達障害者との交流会に参加する。その上で、合否判定している。
 6)定着支援としては、@研修の参加・不参加の選択可能、A半期に1回人事部が本人、上司と面談、B入社3ヶ月はジョブコーチ支援依頼、C障害に関する部門内勉強会、D産業医等による定期的な面談、E上司との定期的な面談、F合理的配慮アンケート調査の定期的実施を行っている。
 7)その他感じていることは、@採用面接だけでは本人の能力、スキルを見抜くことができない、A採用は終わりではなく、入社後の定着支援が活躍の鍵であり、上司や職場メンバー、本人と人事との信頼関係構築が重要である。


次に、株式会社リコー 環境・エネルギー事業センターの荒牧様から企業で働く立場から事例報告が行われました。その概要は、次のとおりです。(荒牧様のお話の詳細はこちらの資料をご覧ください。)

1)障害特性は、自閉スペクトラム症、社交不安障害である。得意なことは、言語処理能力、数理処理能力、批判的思考、創造的思考、粘り強くやり抜く 力、手先の器用さである。一方、不得意なこと、配慮してもらいたいことは、@他人からの評価への不安等から報告・連絡等が遅くなることがある→報告・連絡等の時間設定、A完璧主義でコミュニケーションの応答や作業速度が遅くなることがある→締切・納期の提示やペースメイキング、B口頭指示を聞きながら要領よくメモを取ることが苦手→視覚資料、メモを取る時間、C要領よく新しい環境に適応することに時間がかかる→特に最初は明確で具体的な指示、ルールの明確化
  2)経歴と就活歴をまとめると、大学、修士課程修了後博士課程へ進学した。
博士課程単位取得満期退学し、大学の研究生入学の後、現会社に就職し、現 在、企画・プロジェクトマネージメントを担当している。
  3)就職活動で困ったことを挙げると、修士課程時における面接での自己アピール、博士課程後において、一般選考で新卒規程(多くは卒後3年以内)により多くの企業の新卒枠へ応募できないとともに、前職がないため中途枠への応募も難航した。また、障害者選考では、求人がバックオフィスの軽作業ばかりで希望する職種がなかった。
就労支援で助けられたことを挙げると、@応募先探しにあたって、大学のコミュニケーション・サポートルームやハローワーク担当者からの紹介や開拓等の手厚い支援、A現会社における長期インターンシップにより、自分自身の立ち位置を見直すと同時にビジネススキルの基礎も学べた。
  4)現会社における選考で助かったことは、@技術系での応募ができた、A2週間のインターンシップにより配属予定先の部署で実際の業務を経験することができ、メンバー相互の理解促進につながった、B同じ障害の方との交流会、C就職の決め手としては、上司からの期待(障害があっても気にしない、戦力として活躍を期待)や正社員登用へのロードマップの明示がある。
 5)現在の業務内容は、環境事業関連の技術検索、論文等の文献調査、システム構築のための社内外との調整、社外調査・社内ヒアリング結果の整理・報告である。このような支援があれば助かると思うことは、現状で大きく困っていることはない。ありがたいと思っていることは、@特別視されないこと、Aグループリーダーと週1回の面談、先輩とのデイリーミーティング(約1年半)、B神奈川障害者職業センターの支援(1〜2ヶ月に1回の面談、1年半ほど)が挙げられる。

事例発表に続いて、グループディスカッションとその結果を踏まえた全体での質疑応答が行われました。

最後に、川島全障協理事から次のような閉会の挨拶がありました。

1)講演講師の梅永先生、事例報告をいただいた中村様、荒牧様、そしてご参加いただいた皆さま、本日はありがとうございました。
 2)本日テーマに取り上げた「発達障害」は、これまで障害があるのかどうか、あるとすればどのように対処したら良いか等十分に理解が進んでいない面がありました。こうしたことから、当事者の方々にとって、又は企業の関係者の方々にとって、職場での募集、採用、職場適応をはじめ、社会生活の面でも的確な対応が十分でなかった面があります。しかし、本日の詳細な講演内容と職場での実務的な対応を伺って、参加いただいた皆さまに理解を深めていただく機会を提供できたのではないかと考えています。皆さまにおかれては、本日のセミナーをきっかけに、今後発達障害のある方々をはじめ、障害のある方々の雇用に一層のご理解ご尽力を賜りますよう期待しております。
 3)また、全障協が設置しております障害者雇用の相談コーナーにおきましては、発達障害を含め企業の方々からの障害者雇用の各種相談に対応しております。皆さま方のご利用をお待ちしております。本日はありがとうございました。