平成30年度近畿ブロックイベント「障害者就労フォーラムin兵庫」が開催されました。
去る12月11日(火)午後1時より、尼崎商工会議所701会議室において標記フォーラムが開催されました。
このフォーラムは、全重協が厚生労働省から受託した「障害者に対する差別禁止及び合理的配慮に係るノウハウ普及・対応支援事業」の一環として開催されたものです。
当日は、まず最初に、主催者を代表して全重協の栗原会長から開会のあいさつがあり、1)全重協には、北は北海道の稚内から南は沖縄の宮古、石垣まで全部で320以上の会員事業所が加入している、2)会員事業所の約3分の1が特例子会社となっている、3)会員事業所に雇用されている障害者は1万人以上で、そのうちの13%が精神障害者となっている、4)法定雇用率が今後3年以内に2.3%に引き上げられ、さらに、常用労働者が100人以下50人以上の企業にも納付金が適用されることが検討されている中で、精神障害者の雇用は喫緊の課題、5)11月21日に開催された衆議院厚生労働委員会に障害者雇用問題に係る参考人として出席した、6)その後、5人の参考人が6人の委員から質問を受けた、7)当日は、「障害者が働く環境を整備しないまま4,000人の障害者を雇用してもうまくいかない」「逆に障害者が働く環境を整備すれば障害者は戦力となり、障害者にとっても障害者を雇用する側にとってもwin-winの関係となる」ということを申し上げた、8)本日は、精神障害者を企業の戦力にするにはどうしたらいいかということについてもお話があると思うので、参考にしてほしいという話がありました。
栗原会長のあいさつの後は、法政大学現代福祉学部教授の眞保智子様から「障害者の更なる活躍を目指して」と題して講演がありました。
眞保様からは、1)平成9年に知的障害者の雇用が義務化されたときは、今の精神障害者と同様にあるいはそれ以上に雇用がむずかしいと思われていたが、企業や支援機関等関係者の尽力と制度の後押しもあり、今では知的障害者の雇用管理の手法が蓄積された。したがって、精神障害者の雇用管理についての知見も必ず関係者間で共有されることになる、2)スウェーデンは障害者の福祉が進んでいるといわれているが、その分消費税は25%となっている、3)税金で支えるという考え方もあろうが、一人ひとりが自分の仕事の2.2%分をシェアすると考えるのはどうか、4)自分の仕事を見直してシェアすることで残業を減らせば、日本の労働生産性は上がる、5)障害者の仕事を創造するには、「比較優位」による分業(ワークシェアリング)の視点が重要、6)それぞれの社員がやっている周辺業務(周辺業務はコア業務に近い難しい仕事からコア業務と直接関係のない比較的簡単な仕事がある)を能力と適性に応じて適材適所の視点で障害者が担当できれば、社員はそれぞれが優先順位の高いコア業務に集中でき、生産性も上がる、7)障害者雇用はフルタイム勤務ばかりではなく、時給制で短時間勤務から始めることも考えられる、8)障害者雇用を始めるに当たっては、制度や活用できる社会的資源の情報を収集することが重要、9)その上で、他の企業はどうやっているか、先進的な企業を見に行くことも重要、10)マッチングをうまく進めるためには、職場体験実習が絶対に必要、11)知的障害者の雇用には、保護者の高齢化による生活支援力の低下も見据え、信頼できる支援機関が必要、12)精神障害者の雇用には、更に医療機関との連携も重要、13)障害者の初期訓練費用については、助成金や支援機関を活用できるといったお話がありました(眞保様のお話の詳細については、こちらの資料をご覧下さい)。
眞保様のご講演の後は、地元近畿ブロックで精神障害者の雇用に積極的に取り組んでおられる株式会社トーコー総務部エキスパートの小澤公嗣様から、同社の取組について事例報告がありました。
同社は、1980年5月に設立された総合人材サービス業(人材派遣、業務請負、職業紹介)を行う会社で、本社は大阪府枚方市にあります。
従業員は約4,700人で、うち常用労働者は2,300人だそうです。また、現在雇用されている障害者は全部で55人、障害者別の内訳は身体21人、知的7人、精神27人だそうです。
小澤様からは、1)2016年4月から2018年6月までの間に35人の障害者(身体7人、知的6人、精神22人)を雇用したが、そのうち10人(身体3人、知的1人、精神6人)が退職している、2)障害者は、本社の他、支店、請負事業所、派遣先に配置されている、3)本社では、障害者が総務、経理、安全衛生、営業企画関係の業務を行っている、4)支店では、同じく求人広告への応募受け付け、採用・更新手続き、勤怠管理、安全衛生・教育訓練、外国人雇用、資料作成、庶務関係の業務を行っている、5)請負事業所では、廃棄物リサイクル、ガスコンロ部品の製造、家電量販店向けの入出荷等の業務を行っている、6)障害者の採用は、支援機関からの紹介→顔合わせ(職場見学)→職場実習→振り返り面談による本人の就業意思の確認という流れで行っている、7)障害者が入社する前に「企業就労は福祉就労ではない」「配慮はするが特別扱いはしない」「いちばん大切なことは(急に)休まないこと」といったようなことを本人と共有している、8)「業務量、業務内容に関する個別配慮」「気立てのよいお世話係の存在」「職場の善性、職場の共感を重視」「優秀な支援者との信頼関係」といったことが職場定着につながっていると思われるといったお話がありました(小澤様のお話の詳細については、こちらの資料をご覧下さい)。
眞保様と小澤様のお話の後は、グループディスカッションということで参加者が4〜5人のグループに分かれて障害者雇用に係る日頃の悩み等について話し合いました。
その後、各グループからそれぞれどんなことを話し合ったか発表がありましたが、その中で、1)特例子会社でも知的、発達、精神の各障害者の雇用が増えているが、それぞれの障害者に合う仕事を本社からいかに取ってくるかが課題、2)支援機関から紹介される実習は掃除の仕事が多いが、事務系の仕事について実習するにはどうしたらいいか、3)障害者を長く雇用していく上で、その成長を見越した配置換えも必要ではないか、4)親会社の残業時間を減らせるような仕事の切り出しをするにはどうしたいいかといった話がありました。
これに対し、眞保様から、それぞれの話に対し、1)欧米では、コアの業務をやる人とそれをサポートする人がいるが、日本では両方の仕事を1人の人がやっている。こうした中で、後者の仕事を障害者が担当すれば、本社の生産性も上がるのではないか。サポート業務にはコア業務に近い難しい仕事から比較的簡単な仕事もあり、能力と適性に応じて様々な仕事を担当することが可能と考えられる。人によってはサポート業務からコア業務を担うことができるようになり、正社員に登用されるケースも出てきている、2)比較的小さな会社の実習は事務系の仕事で採用されるケースも多く、実習先も確保できるのではないか。全重協の企業にも相談してほしい、3)知的障害者には成長欲求もあるし、人は誰でも仕事に飽きるということもある。そういった意味で仕事のローテーションや配置換えは重要。製造業では、それまでの仕事に近い仕事に配置換えすることが多いが、事務系の場合は、かなり違う仕事に配置換えすることもある、4)病院では看護師がやっていた周辺業務を障害者が担当するという形で比較優位に基づく分業の視点での仕事の切り出しが行われている。仕事ができる忙しい人の周辺業務を切り出すことがポイント。その際、企業在籍型のジョブコーチの視点が重要といったコメントをいただきました。
以上のお話の後は、グループディスカッションのまとめとして、眞保様から、障害者雇用を進めるに当たっては、全国組織である全重協のネットワークも生かしてほしいというコメントを更にいただき、今回の「障害者就労フォーラムin兵庫」を終えました。
当日は、眞保様と小澤様から、精神障害者等の雇用を進める上で大変参考になる具体的なお話をお聞かせいただくとともに、グループディスカッションでも近畿ブロックらしい白熱した議論が行われ、参加された方にとっても満足度の高いフォーラムとなりました。